水和(溶媒和)
本号で紹介したアプリケーションERmodのキーワードは「水和(溶媒和)」です。その現象には大きな意味が込められています。
水和とは?
物質が水に溶けるとき、溶ける物質(溶質分子)は周囲の水分子を引きつけて、1つの分子集団をつくり、安定化します。これを”水和”といいます。「ものがよく溶ける」というのは、「よく水和する」ことを意味しているのです。水和が起こると、溶質分子の性質が変化します。また、溶質のまわりの水分子も、溶質が存在しないとき(あるいは、溶質から遠く離れた水分子)と比べて、反応性や安定性が変化します。水和の現象は、タンパク質の機能発現など、いろいろな場面で重要な役割を果たしています。
溶質分子が溶ける対象は、水だけではありません。一般に、液体のような分子集合系(溶媒)に、他の物質(溶質)が溶けるとき、溶質-溶媒間の相互作用によって、溶質・溶媒双方の性質に変化が起こります。これを”溶媒和”といい、特に溶媒が水の場合を水和と呼んでいるのです。
溶媒和の概念を広げて
溶媒和の概念は、いわゆる「溶ける」現象以外にも広げて考えることができます。例えば、水+生体膜からなる不均一な混合系を溶媒と見なし、タンパク質を溶質と見なすことで、タンパク質の膜への結合を、溶媒和の視点からとらえることができます。あるいは、還元反応において、付加する電子を溶質、電子を受け取る物質と周辺の媒質を合わせて溶媒と見なし、溶媒和の概念を導入することが可能です。
このように、「溶媒和」というキーワードで、溶解・結合・吸収などに関連したさまざまな現象を統一的に理解することができる、と期待されます。
協力:水口朋子(京都大学)