メタンハイドレート分解過程の微視的機構
矢ヶ崎 琢磨 やがさき たくま
岡山大学大学院自然科学研究科
メタンハイドレートは水分子で構成される籠状構造の中にメタン分子が取り込まれた固体である。現在、海底でこれを分解してメタンを取り出す方法が精力的に模索されている。また、海底のメタンハイドレートの分解は、地球温暖化に深く関係しているとも言われている。このように水中のハイドレートの分解過程は重要な課題であるが、その微視的な機構はまだ明らかではない。重点研究員として、私はこの問題に取り組んでいる。
研究をしていて最も楽しい瞬間の1つは、予想外の結果が出たときである。この研究でもそれがあった。通常、固体の融点は粒子間の結合の強さでおおよそ決まり、その固体の周囲の状況にはよらない。例えば大気圧下の氷は、水中でも空気中でも0℃で分解する。ところが、われわれが分子動力学計算したところ、大気圧下のメタンハイドレートでは、固体全体が水に取り囲まれている場合のほうがメタンの気相と接している場合よりもはるかに分解温度が高いことが明らかになった。
ハイドレートが水に囲まれている場合、分解して生じるメタンは水に溶けた状態になる。ところが、メタンは水に非常に溶けにくいため、分解過程の進行は抑えられてしまう。これが水中での高い分解温度の原因であり、1成分の固体では起こりえない現象である。この分解過程では、分解中にメタンの気泡が生じることで分解速度が上昇することになる。その後の計算で、これも確かめることができた。
水中のメタンハイドレートの分解機構では、気泡が生じるとその周囲だけが速く分解するという不均一な分解過程が予想されるが、これは小さな系の計算では調べられない。また、熱勾配やメタンの濃度勾配、さらには気泡の移動などの影響の解析にも大きな系が必要である。
今後、京コンピュータを活用してこれらの問題を明らかにしていく予定である。
水中のメタンハイドレートの分解過程のスナップショット。ハイドレートの分解により、水中に溶出した気泡をつくっている。 この気泡がハイドレートのさらなる分解を促す。 |