有機伝導体の結晶構造と分子間相互作用を大規模計算で求める
大西裕也 おおにし ゆうや
神戸大学大学院システム情報学研究科
原子や分子に関わる化学現象の理論的解明を目的とした計算化学は、高精度化と大規模化をめざして発展を続けており、ごく小さな分子ならば、精緻な実験と同等の精度で計算できるようになった。分子軌道法に基づいて高精度な計算を達成するためには、高精度な理論と同時に大きな基底関数を用意する必要がある。しかしながら、高精度な理論では基底関数のサイズの5乗以上で計算コストが増大するため、数十原子からなる分子の高精度計算は非常に難しい。
この問題を解決するアプローチは2つある。1つは、より少ない基底関数で高精度な計算を可能とする理論を開発することである。もう1つは、超並列計算機のための並列実装を行い、大規模分子の計算を可能とすることである。この両者を達成したものが、本課題で開発されているGELLANプログラムに並列実装された露わに相関した2次の摂動論 (M P2-F12法)である。図に示したように、この新規理論と大規模並列実装によって、フラーレンなどの巨大な分子の高精度な計算が可能となった。
私は現在、さらなる高精度化をめざして高次の摂動項を取り込んだ露わに相関した電子状態理論の開発を行うと同時に、すでに実装されているMP2-F12法を用いて、有機伝導体として有望なフラーレン誘導体やポルフィリンからなる分子性結晶の微視的構造とその決定因子を解明する研究を行っている。
有機伝導体は分子の特性と同様に結晶構造の制御によっても効率が向上することが明らかになっているが、結晶構造と密接に関係する分子間相互作用を実験で正確に求めることは困難なため、これを大規模計算によって正確に見積もることで、より高性能な分子の設計に有用な知見を与えたい。