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密度汎関数法によるナノ構造の電子機能予測


課題の内容・目標
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この重点課題の目標は、「数万から数十万原子群から構成されるナノ構造体に対する密度汎関数理論による第一原理計算を、最先端のスーパーコンピュータで実行可能にする高速計算技法を確立し、それによりナノ構造体の原子・電子構造とデバイス特性、さらには構造体生成の機構を明らかにする」ことです。より基礎的な問題に挑戦するCMSI第1部会と連携しつつ、基礎科学の知識を実際のテクノロジーに適用するのがCMSI第2部会の中のこの重点課題の役割です。つまり、第一原理計算を量子シミュレーションやデバイスシミュレーションなどのTCAD(Technology Computer Aided Design)に役立てる課題ということです。
具体的な計算手法としては、実空間密度汎関数法RSDFTやオーダーN法第一原理プログラムCONQUESTを2本の柱として研究開発を行っています。RSDFTは、実空間に格子を導入し、各電子軌道、電子密度、ポテンシャルなどの諸量を格子点上で計算し、Kohn-Sham方程式を解くため、平面波基底を用いた密度汎関数法と比べ、すべてのCPU間の通信が必要になる高速フーリエ変換(FFT)が不要です。また、波動関数に対して非周期系・周期系などの任意の境界条件を設定することができます。
CONQUESTは、Kohn-Sham方程式の固有波動関数を求める代わりに、一体の密度行列を求めます。通常の計算方法では、原子数Nに対して必要な演算量はN³に比例しますが、Nに比例するオーダーN 法を用いることにより、数万、数十万原子以上を含む超大規模系に対する第一原理計算が可能になるのです。

現状
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RSDFTを超並列マルチコア・アーキテクチャのコンピュータに対して最適化し、スーパーコンピュータ「京」上で全体のリソースの70%を用いて行ったシリコン・ナノワイヤの10万原子計算において、実効性能3.08ペタフロップス(実行効率43.6%)というパフォーマンスを達成しました。これにより、ハイ・パフォーマンス・コンピューティングに関する国際会議SC11において、ゴードン・ベル賞(実効性能部門最高性能賞)が授与されました。ただし、「京」の70%を占有しないと数十万原子に対するシミュレーションは難しいことから、現時点ではRSDFTは数万原子の計算に適していると言えます。また、他の手法だと多大な計算時間を必要とする数千原子の計算の系も、RSDFTの高効率並列計算により、比較的容易に扱えます。
RSDFTにより、数万、数十万原子サイズのシリコン・ナノドットにおける電荷注入エネルギー、シリコン・ナノワイヤの電子状態、炭素ナノチューブとシリコン界面の相互作用、薄膜上のシリコン版グラフェンである「シリセン」の構造などが明らかとなりました。また、大規模な第一原理密度汎関数計算を可能にするだけでなく、汎関数の改良にも取り組み、ハイブリッド交換相関エネルギーを導入し、バンドギャップ問題などを改善しました。

期待される成果
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半導体デバイスの微細化が限界に近づいている一方で、量子効果を利用したナノスケールのデバイスの研究が進められています。第一原理計算手法を可能な限り高速化し、ナノ現象を支配する量子シミュレーションができれば、新しいデバイスの設計と指針が得られます。具体的には、次世代デバイスの起爆剤となるナノドット・ワイヤの構造的安定性と電子機能予測、次世代デバイス・ナノ接合部の電子、熱、原子輸送の量子論構築とデバイス特性の解明、ポストスケーリング時代のデバイス・シミュレーター基盤技術の構築、などの成果が期待できます。
社会に及ぼすインパクト・貢献日本の半導体産業を活性化させるためにも、第一原理計算を半導体シミュレーションに役立て、デバイス物質機能の予測、新機能材料、新ナノ構造の検索と提唱へと展開することが重要です。また、RSDFTやCONQUESTのスパコン上での高速化は、スパコンを利用するためのソフトウェアの開発につながります。ただ、ハードだけが進化しても、それを有効に利用できるソフトがなければ高速演算を行うことができません。スパコンの進化とともにソフトも進化する必要があり、本課題は日本のスパコン技術の進歩、伝承に貢献するものと期待されています。