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電子状態・動力学・熱揺らぎの融和と分子論の新展開

 

重点課題の概要
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米原 現実の化学現象を予測、理解し、その制御につなげることをめざす理論分子科学の研究では、(1) 現実的なサイズの分子系・物質系への適用が可能で、(2) 簡便性と高精度な予測性を備えた計算手法の開発はきわめて重要です。実験に対し理論側が信頼性のあるレファレンスデータを提供するという大きな意義をもっています。電子状態を主体とする理論物質科学においては、電子相関と呼ばれる電子同士の多体相関の記述が定量予測の鍵になります。 まず、重点課題についてのご紹介をお願いします。
天能 重点課題の目的は、「京」コンピュータでなければ解けない問題にチャレンジし、社会的にも意義の大きな研究成果をあげることです。ガウス型基底関数を使う分子の電子状態計算のコードは非常に複雑で、「京」を使いこなすだけでもさまざまな技術が必要です。現在、F12理論が超並列実装され、ナノ炭素材料などのプロダクションランが行われていますが、ミッションの後半にかけては、有機ELや人工光合成での励起状態を含む材料設計や、希土類の代替物探索を可能にすることによって、他部会への学問の流れをつくることが重要だと考えています。
米原 重点課題のテーマを掲げられた経緯について教えてください。
天能 物質設計などの応用分野で主に用いられてきたのは密度汎関数法ですが、物理的に欠けているところがたくさんあります。分子科学分野で発展してきた摂動論や結合クラスタ理論を「京」コンピュータで走らせることにより、これまでとは本質的に異なる物質科学をめざせないかというのが動機です。

成果と今後の展望
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米原 最近の具体的成果について、ご紹介願えないでしょうか。
天能 F12法で用いている分子求積法は超並列計算に向いており、これまでハイブリッド並列化を進めてきました。これにより、数十万CPUコアでも非常に高い実行効率を引き出すことができるようになりました。また、分子軌道計算に不可欠な積分の実行効率が問題でしたが、これも求積法を用いたコードのSIMD化を行い、有用な計算手法に発展させています。
米原 化学においては、電子状態を含む分子構造に関する正確な知見に加え、しばしば、反応動力学の微視的情報も求められます。ご自身の研究技法を反応動力学に適用していくことの可能性、その際の課題、解決のイメージ等について、お聞かせ願えないでしょうか。
天能 低励起状態に関しては、ポテンシャル面と非断熱結合の行列要素を注意深く計算することにより、何が起こっているかを知ることがおおよそ可能です。それを「見てきたかのように」定量化するためには反応動力学が必要ですが、一般に興味深い現象は多自由度ダイナミクスであるので、電子状態計算とは分離することができないと考えられます。動力学の技術が電子状態理論に取り入れられる発展が望ましいと思います。

計算物質科学の魅力
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米原 若い世代(大学生や大学院生)に向け、分子科学や計算物質科学の魅力、科学における計算機の有用性に関するアピールをお願いいたします。
天能 現実の物質科学を理論計算で予言できること、それに向かってボトムアップでチャレンジする研究分野であるということが魅力です。長い間、大型計算機を使うよりも基礎理論の発展のほうが大きなブレークスルーをもたらすと考えてきました。しかしながら、近年の超並列計算環境のスケールを考えると、スパコン利用は科学技術計算では大きな優位性になってきていると思います。分子科学で発展してきた高精度な量子化学理論と「京」コンピュータを組み合わせることで、物質科学においてこれまでは見えなかった本質が今後明らかになっていくはずです。