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CMSIの研究課題

スーパーコンピュータ「京」で切り拓く新たなパラダイム


物質科学は、理論・実験と並んで計算機シミュレーションの活用によって進展をとげてきました。計算物質科学のシミュレーション手法には、量子系、古典系、あるいは連続体系として扱うかなど、精度や計算量の異なるさまざまな手法がありますが、これらの手法をさらに発展させ適切に組み合わせることで新たなパラダイムを生み出すことが期待されています。
このような研究を積極的に進めていくため、CMSIでは以下の部会を設置し緊密に相互交流を行っています。

第1部会 「 新量子相・新物質の基礎科学」
近年、鉄や銅の酸化物による高温超伝導体(電気抵抗がゼロになる物質)、トポロジカル絶縁体(表面のみが強固な金属となる絶縁体)、フラーレンに代表されるナノ炭素材料など、新奇な性質をもつ物質が発見されています。物質科学の源流におけるこれら新物質の機構解明に取り組むとともに、より高精度な計算手法(モンテカルロ法、MP2-F12法など)の改良・整備に努めています。

第2部会「 次世代先端デバイス科学」
今日の電子機器の性能を左右する半導体の細線技術はほぼ限界に来ています。次世代の技術として注目されている光デバイス(電気信号の代わりに光を用いた部品)やシリコンナノワイヤ(シリコンでできた直径が数ナノメートルの細線)の実用化をめざし、挙動の解明を行います。

第3部会 「分子機能と物質変換」
生体分子を物質としてとらえ、ウイルスの増殖、感染、免疫の機構を分子レベルで解き明かします。これらの知見をもとに、ウイルスを構成するタンパク質と薬剤候補となる物質とのドッキングシミュレーションを通じて、創薬に役立てます。

第4部会「 エネルギー変換」
電気自動車等に利用される燃料電池やリチウムイオン電池の大容量化、高寿命化を実現する材料を探索するには、電極の化学反応の理解が不可欠です。また、エコなエネルギー源として注目されているメタンハイドレート(メタンが水分子に取り囲まれた化合物)から効率的にメタンを取り出すには、メタンハイドレートの生成・融解過程を明らかにする必要があります。これらの化学反応過程を計算機シミュレーションにより解明しようと試みています。

第5部会「 マルチスケール材料科学」
鉄鋼材料を強靱化するためには、ミクロスケールにおける電子・原子の挙動のみならず、メソスケールにおける内部組織の知見が不可欠です。また、凝固過程での組織形成が製品のマクロな性質に影響を与えるために、結晶成長の制御も不可欠です。さまざまなスケール域をスムーズに連結できるシミュレーションをめざしています。

 

CMSIでは、計算物質科学において緊急性の高い「重点課題」と、次の重点課題の候補として位置づけられる「特別支援課題」を設定しています。スーパーコンピュータ「京」の利用に際して、重点課題はCMSIに割り当てられた計算資源を使い、特別支援課題は自ら「京」の一般利用に応募し獲得した計算資源を用いています。これらの課題は、「京」に対して達成した並列化効率、科学的な重要性を考慮して、年度ごとの審査により新規採用、入れ替えを行う予定です。
次ページ以降では、CMSIの重点課題7課題、および特別支援課題のうちで「京」の一般利用に採用された2課題を、各課題の代表者に拠点研究員が取材して紹介しています。また、各重点課題で活躍している重点研究員にもご登場いただきました(CMSIに特有の拠点研究員・重点研究員の制度については、Torrent No.3をご参照ください)。

 

【「京」を用いてシミュレーションを進めているCMSIの研究課題】

第1部会: 新量子相・新物質の基礎科学 重点課題:相関の強い量子系の新量子相探索とダイナミックスの解明
重点課題:電子状態・動力学・熱揺らぎの融和と分子論の新展開
第2部会: 次世代先端デバイス科学 重点課題:密度汎関数法によるナノ構造の電子機能予測
特別支援課題:ナノ構造体における光誘起電子ダイナミクスと光・電子機能性量子デバイスの開発
第3部会: 分子機能と物質変換 重点課題:全原子シミュレーションによるウイルスの分子科学の展開
第4部会: エネルギー変換 重点課題:燃料電池関連物質における基礎過程の大規模計算による研究
重点課題:水素・メタンハイドレートの生成、融解機構と熱力学的安定性
特別支援課題:高性能リチウムイオン電池の開発に向けた基礎的研究
第5部会: マルチスケール材料科学 重点課題:金属系構造材料の高性能化のためのマルチスケール組織設計・評価手法の開発

 

(坂下達哉:東京大学物性研究所 CMSI物性科学拠点研究員)