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第4回 CMSIの拠点 CMSI神戸拠点

 

CMSI神戸拠点

坂下達哉  さかした たつやsakashita

東京大学物性研究所計算物質科学研究センター /CMSI物性物理拠点研究員

 

CMSI神戸拠点は、スーパーコンピュータ「京」が設置されている理化学研究所計算科学研究機構(AICS)にあり、「京」を利用する物性物理、分子科学、材料科学すべての分野の研究者の拠点としての役割を担っています。その活動を坂下達哉さんが紹介します。

 

「京」にもっとも近い活動拠点

計算物質科学研究センターの神戸分室として、2011年4月に神戸ポートアイランドにあるAICSの5階の一室に開設されました。そこは「京」にもっとも近く位置した居室です。
現在、「京」はどこからでもログインして利用できるようになっていますが、2012年9月までは試験利用期間でありAICS内からのみ利用可能となっていました。私が着任したのは、ちょうどその期間で、全国からCMSIの研究者が神戸拠点に集まり、日夜、作業に没頭していました。
神戸拠点には、7席の訪問者用の作業スペースのほか、14名で利用可能な会議スペース(大型モニタ、テレビ会議システム)も用意されており、滞在者は自由に利用することができます。このスペースは、計算物質科学セミナーや、CMSI配信講義(Torrent No.8参照)および配信セミナーの受信会場として活用しています。また、以下で紹介する神戸ハンズオン、TOKKUN !( アプリ高度化・利用相談)も実施しています。

 

アプリの普及と高度化のための講習会とTOKKUN!(特訓)

CMSIでは、「京」を用いた大規模シミュレーションによる最先端の計算物質科学研究だけでなく、そこで開発されたアプリケーションも成果として積極的に公開し、国内外での普及をめざしています(Torrent No.8MateriAppsの記事参照)。その一環として、神戸拠点では毎月講習会(神戸ハンズオン)を実施しています。講習会では、「京」の計算データの後処理および可視化用も兼ねて設置されたクラスタワークステーションを用いて、実際にプログラムを動かしながら操作方法を学んでいきます。
これまで講習会で扱ったのは、CMSIで開発したアプリALPS、OpenMX、xTAPP、Rokko、feram、FMO in GAMESS、FU、MODYLAS、 SMASHのほか、いまやソフトウエア開発に必須のツールであるバージョン管理システムです。講習会は回を重ねるにつれて、初心者、中級者、上級者向け(アプリ開発者向け)と難易度や目的に応じて内容が充実してきました。講習会をおこなうことは、アプリの開発者側にとっても、新規ユーザ開拓、機能追加の要望、使いやすくするための改善案などのフィードバックをもらえるという利点があります。また、これまで別々に開発されてきたアプリ間の連携を生み出すきっかけともなっています。
TOKKUN ! は、「京」の一般利用枠への採用を目標として、参加者が持ち込んだプログラムを逐次および並列レベルでチューニングすることを目的とした合宿です。TOKKUN ! では、CMSI拠点研究員、富士通のシステムエンジニア、高度情報科学技術研究機構の研究員のアドバイスを受けることができます。また、プログラム作成を皆と気軽に相談しながらおこなう良い機会にもなっています。前回からは、CMSIで開発したアプリ(OpenMX、FMO、 MODYLAS)の利用相談も始めました。

 

大規模並列計算を通じた分野融合をめざして

それ以外にも、チューニング事例、アプリ利用例を共有するための、「京」・HPCIスパコン利用情報交換会や、CMD®ワークショップ、CMSI若手技術交流会、さらに、素核宇宙分野とも関連が深いイベントとして、テンソルネットワークをテーマとした国際ワークショップ2013、 2014(Torrent No.9参照)などをおこなっています。また、「京」を用いたシミュレーション成果を一般向けに説明する記者勉強会、TCCI Seminar(計算分子科学セミナー)をAICSとともに企画・実施しています。
スパコンは超並列の時代を迎え、高速で高精度の計算手法や使いやすいソフトウエアを 創出するには、ハードウエア、ソフトウエア、物理、化学、数学などの研究者間の連携が不可欠となりました。AICSは、このような多分野の研究者が一カ所に集う日本で初めての研究機関です。われわれは、AICSの研究チームをはじめとする近隣の計算科学の研究者との交流に加えて、CMSIがもつ計算物質科学の全国規模の人材ネットワークを活用することで、CMSI神戸拠点を「大規模並列計算を通じた分野融合」という新たな試みの場として引き続き発展させていきます。

 

Ozaki

CMSI神戸拠点長からのメッセージ

尾崎 泰助

おざき たいすけ

資本主義社会では富める者はますます富むことを論じたピケティ教授の『21世紀の資本』がベストセラーになっています。その話を聞きかじり、シミュレーションのソフトウエア開発でも同じ状況ではないかと感じています。日本のコミュニティではソフトウエア開発は副業的な側面が強く、標準コード開発の成功事例を多く聞きません。標準コードは通常20年以上の開発期間を経ており、いったん優劣が生じると情報や人材が集約され、開発が加速度的に進んでいきます。差異が明らかになった際には時すでに遅し、10年スパンでの差が生じていることになります。CMSIでは現状を正しく認識し、ソフトウエアを育てるために何をするべきなのか議論し、開発者支援のための活動をおこなってきました。今後、この活動が実を結び、世界を先導するソフトウエアが育っていくことを期待しています。

 

 

「京」だより

「京」の後継となるスーパーコンピュータ(ポスト「京」)の開発をめざすプロジェクト「フラッグシップ-2020」が始動しました。ポスト「京」は、汎用CPUを用いたメニーコア型のアーキテクチャとなる予定で、2020年ごろまでにエクサスケールコンピューティング*の実現をめざしています。ハードウエアの開発と並行して、ポスト「京」で実行するアプリケーションの開発も始まっています。
基礎科学から防災・環境問題にわたる幅広い分野から9つの重点課題が設定され、そのうち、重点課題(5) 「エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発」では分子研を代表とする9機関が、重点課題(7)「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」には物性研を代表とする9機関が実施機関として採択されました。今後、準備研究期間を経て、計算機科学者と連携して次世代の計算物質科学アプリケーションの開発を進める予定です。

*「エクサ」は京の100倍、10の18乗を表します。