分子動力学計算を用いた自由エネルギー計算
藤本和士 ふじもと かずし
名古屋大学大学院工学研究科
界面活性剤の凝集体であるミセル水溶液における可溶化、物質の細胞膜透過、ウイルスカプシドとレセプタとの結合等は、それぞれの分子の分子間相互作用により引き起こされる。このような物質の透過や結合を物理化学的に理解する上で、その自由エネルギーを計算することは大変に有効な手段である。
われわれはウイルスカプシドとレセプタとの結合を分子論的に明らかにするために、分子動力学計算を用いて、ウイルスカプシド-レセプタ間の自由エネルギープロフィールを計算することをめざしており、そのためのプログラムを開発している。このプログラムを用いて、実際にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ミセルへのメタン分子と水分子の自由エネルギープロフィールを計算した。その結果を図に示す。図(b)のメタンの平均力を見ると、r =2 nm付近において大きな引力が働いており、この力によって、メタンがミセル内に取り込まれることがわかった。一方で、水分子は0.5 < r < 2 nmの範囲において、斥力が働いており、ミセルに取り込まれない。平均力を積分した自由エネルギープロフィール図(c)を見ると、メタンはミセル中に障壁なく取り込まれ、局在化することなく動き回っている。また、水分子はミセル内において不安定であるため、水分子のミセル内への取り込みは行われないことがわかる。
このように、自由エネルギープロフィールを求めることにより、結合の位置、その強さを解明することができる。今後、ウイルス/レセプタ系に適用し、ウイルス-レセプタの結合自由エネルギーを計算することにより、その分子論を明らかにしいきたい。