現在位置: ホーム torrent No.6 日本語版 卒業生を訪ねて 「研究畑から社会インフラのシステムエンジニアへ」

卒業生を訪ねて 「研究畑から社会インフラのシステムエンジニアへ」

産業界で活躍する計算物質科学の「卒業生を訪ねて」第2回は、構造計画研究所の吉見一慶さんにお話を伺いました。入社して半年、携帯電話などの電波伝搬の解析に携わっています。大学院での研究、この仕事を選んだきっかけ、そして、これから取り組んでいきたい仕事は?

既存+αという意識が浸透した職場

小西 社会インフラシステム部というのは文字通りだと思うのですが、具体的にはどんな仕事なのですか。
吉見 電波伝搬や信号通信に関する解析を主に行っています。例えば、弊社では「RapLab(Radio Propagation Labratory)」という電波伝搬解析のパッケージを出しています。携帯電話やラジオ、テレビ等の信号を解析するソフトですが、その特色は新しい研究成果を取り入れて市場の需要にマッチするような形にして売り出しているという点にあります。そのパッケージの中で利用されているアルゴリズム、その改良に私は携わっています。
小西 アルゴリズムの改良にあっても研究機関や大学などと協力したりするのでしょうか。
吉見 そうですね。学会発表・論文などで知ったアルゴリズムが使えると思ったら、積極的に取り入れる。その導入にあたり不明な点が発生した場合は、研究者に直接コンタクトを取り、最終的に実装までもっていくことが多いです。その意味では、学界との連携は重要です。
小西 今の仕事の魅力というと? アカデミックと比べたときの違い、共通点なども含めて。
吉見 社会に密接したさまざまなことをやっているところが大きく違いますね。アカデミックにいると、自分自身とか自然現象と対話しているようなところがあるじゃないですか。今の仕事では、顧客が求めているベスト・ソリューションが、私の考えているものと違っていたりします。その違いを上手く調整するところが、社会との関わりという意味で非常に面白いと思いますね。
また、職場自体も魅力的です。新しいことを始めようという意識がすごく高い。視野を全方位に広げていて、関係なさそうな分野に対しても自分たちのもつ技術を上手く活用できるアイデアがないか、部全体で考え議論する。そのような機会が多く、刺激的な環境になっています。
アカデミックとの共通点に関しては、基本的に電波を扱うという点で技術的な部分が似ていると思います。そうはいっても、携帯電話の信号解析等に関する技術や知識はもっていないので、いろいろと吸収している段階ですが。
小西 物理というより電気工学のほうに近い印象ですね。その仕事はプロジェクトを組んでやっているのですか。
吉見 そうですね。社会インフラシステム部は30名ほどの部署で、その中の5~10名くらいで1つのプロジェクトを担当しています。プロジェクトを立ち上げたら、どのくらいの作業量になるか、人数や日数を見積もり、工程を入れた線表を作ります。そして、作業を進めながら、線表とのずれを確認していくことになります。そのあたりはアカデミックと違うところですね。また、プロジェクト内では、同じコードをいろいろな人が使うので、ほかの人が読みやすいようにコーディングするように心がけています。

自己管理の大切さを学んだ研究生活

小西 吉見さんは大学院でどんな研究をされてきたのですか。
吉見 東京大学物性研究所の森 初果先生の研究室で有機伝導体について研究していました。当時、有機トランジスタなどが話題になっていて、興味をもったことがきっかけです。ただ、もともと理論気質だったこともあって、修士から博士課程に移るときに、同じ物性研の加藤岳生先生の研究室に移りました。そこでは、超伝導や磁化率について研究しました。
小西 加藤先生の研究室で博士号を取られて、その後は研究員となられた。
吉見 はい。博士号取得後、最初の1年間は、東京医科歯科大学の越野和樹先生の研究室で特任助教として量子光学の研究
をしていました。その後、産総研の石橋章司先生の下で博士研究員として2年間、ふたたび有機伝導体を研究しました。
小西 それぞれの先生から学んだことは?
吉見 森先生からは、発想したらチャレンジという自由さ。加藤先生からは、自由さプラス自己管理の大切さ。そして、越野先生と石橋先生からは、アウトプットを出すことの重要さを学びました。
小西 数値計算との関わりはどうでしたか。
吉見 修士課程のときは、数値計算のパッケージを使う側でした。博士課程では、研究用に自分でコードを組むようになりました。その次の医科歯科大では解析計算が主になったため、ふたたびプログラムを使う側になり、Mathematicaを用いて計算結果を確認したりしていました。産総研では、第一原理のプログラム(QMAS)を利用しモデル化したものを、厳密対角化のプログラムで解析するという形で数値計算に関わりました。目標は自発・協奏的に発達していく産学連携のシステム作り
小西 その後、現在の会社に入社されるのですが、キッカケは何だったのですか。
吉見 博士課程のときから就職希望はあったのですが、研究機関に近いことをやりたいという思いもありました。そのような中、弊社に勤める知り合いから話を聞く機会がありました。それが小さなキッカケです。そのときは記憶にとどめた程度でしたが、その後、実際にホームページを見たのが大きかったです。企業理念としては、なかなか前面に打ち出さないであろう「大学・研究機関と実業界をブリッジする総合エンジニアリング企業」。それを堂々と謳っていることに深く感銘を受け、気づいたら志望していました。
小西 入社して半年ですね。これから取り組んでいきたい仕事は?
吉見 まずは、今の社会インフラの仕事の中で、市場をきっちり理解し、顧客と自分が求めているものを上手くすり合わせることができるようにしたいと考えています。 また、ビッグデータの応用に関しても興味があります。
小西 データをどう集めて、どう使うかということですか。
吉見 データを集めることはできるようになっています。それを、どう解釈してどう使うのかが課題だと考えています。終点をざっくり見定めた上での、たくさんある「シ点」からの情報抽出。個人的には、スマート技術の上に立った教育、例えばeラーニングまで含めて行うことができれば、面白いのではないかと思っています。
また、現在の仕事にプラスアルファで新しいことにチャレンジしていきたいですね。そのときに、通常の企業よりも立ち位置を研究機関に比較的近くとる。そして、弊社の理念をパワーアップさせ、アカデミックの発達と企業への知識の還元を同時に行う。そういった産学がWin-Winの関係にある自発的・協奏的なシステム作りに関わっていきたいですね。

(2012年9月11日 構造計画研究所本所にて)