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CMDワークショップの今後の課題

赤井久純

赤井久純  あかい ひさずみ
大阪大学名誉教授
大阪大学海外拠点本部グローニンゲン教育研究センター
センター長

 

 



これまでの20回のワークショップをふりかえってみると、その講義や実習のほとんどは量子シミュレーションの段階にとどまっていたと思います。量子シミュレーションは、既存の物質を対象にして機能や物性を明らかにするものです。これに対して、われわれが標榜してきたのは、CMD®(コンピュテーショナル・マテリアルズ・デザイン)、新たに求める機能や物性をもつ物質や構造を理論的に設計する「量子デザイン」でした。
今後は、この“デザイン”ということを実習においてもより意識して、より高いレベルで実施していければと考えています。もちろん、5日間の実習で“デザイン”ができるようになるものではありませんし、長年研究していてもうまくいくことは稀有です。CMD®ワークショップでは、そのための技術や考え方、ヒントをつかんでもらい、それぞれの職場や研究室に戻ってから研究を進めてほしいと期待しています。
今後の課題としてもう1つあげておきたいのは、われわれの研究成果を社会に広く公開して利用してもらうための仕組をつくることです。CMD®ワークショップの実習で使っているソフトウェアはすべてフリーウェアで、誰でも自由に利用することができます。科学技術計算ソフトウェアの公開と普及についてはいろいろな考え方がありますが、われわれのコミュニティでは「CMD®コピーマート®」というデジタルコンテンツの流通に関する契約モデルを利用しています。
コピーマート®は、北川善太郎京都大学名誉教授によって提唱されたもので、「コピーしてはいけない」という従来の権利処理に対して、契約を介することによって、あらかじめ権利者の許諾があれば「コピーができる」仕組みを構築しようとするものです。その研究はCMD®ワークショップ以前から始まり、高等研において議論が重ねられてきました。CMD®ワークショップでは第12回からこれを講義に取り入れ、普及に努めています。われわれの成果をできる限り広く社会に還元するには、そのための仕組みづくりも重要ですので、CMD®コピーマート®を1つのモデルとして検討されると良いのではないでしょうか。

(聞き手:下司雅章 げし まさあき 大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センター 特任准教授)