現在位置: ホーム torrent No.2 日本語版 陽に溶媒を取り入れた生体膜系分子シミュレーションの超並列計算に向けて

陽に溶媒を取り入れた生体膜系分子シミュレーションの超並列計算に向けて

審査員特別賞

芝細胞膜や赤血球をはじめ、分子集合体によって形作られる膜構造は、生体内に数限りなく見られます。これらは親水基、疎水基を伴った脂質分子や界面活性剤を主な構成要素とする分子集合体としての性格をもっています。個々の分子の性質からマクロな構造形成、膜面内のさまざまな構成要素の不均一分布などに至るまで多くの興味深い側面があり、生物学のみならず、化学、物理からのアプローチがなされている境界領域でもあります。これらの物質は、現象を支配する空間・時間スケールが大きい非平衡現象を伴うソフトマターの一例であり、よくコントロールされたサイエンスとしての実験から実際の工業的応まで、広く関わっています。

粒子物理的な視点からは、2次元状の膜面の膜弾性や面内流動・結晶化などに由来する性質が、膜の構造や形態の転移、また時間依存のダイナミクスに及ぼす影響が1980年代から議論されてきました。時空間スケールの大きいダイナミクスの研究に便利な手法として、90年代から用いられてきた方法に、「粗視化分子動力学法」があります。全原子の分子をすべてシミュレーションに取り入れるのは困難であるため、巨視的な構造とダイナミクスを再現できる程度に複数の原子の自由度を一つの粒子で代表させる手法です。圧)の研究のため、特に化学分野の計算では溶媒分子と同一系として膜分子の運動を解く手法がかなり普及していますが、物理的な観点からも解明されるべきことが数多くあります。われわれは、粗視化度を大きく取ったメッシュレス膜模型に溶媒を同一系として取り入れることを考えました。メッシュレス膜模型は単分子状の膜の形状を自発的に構成する、膜弾性理論に即して高度に理想化された粗視化分子模型で、膜の開裂、ベシクルの自己集合、融合などが再現できます。これを用いて、膜に対して溶媒の関与する構造転移など、非平衡現象の全容の解明をめざしています。