現在位置: ホーム torrent No.2 日本語版 第一原理 ダウンフォールディング法を用いた鉄系新超伝導体の磁気的性質の解明

第一原理 ダウンフォールディング法を用いた鉄系新超伝導体の磁気的性質の解明

最優秀ポスター賞

三澤固体中の電子がバンド幅に匹敵するほどの大きなクーロン斥力で相互作用しあう系は「強相関電子系」と呼ばれ、近年の固体物理学の中心的な研究対象です。この強相関電子系においては、電子間に働く強い相互作用の結果、高温超伝導などの興味深い状態が実現することが知られています。
このような物性を固体中の「第一原理ハミルトニアン」、すなわち原子がつくる周期ポテンシャルおよび電子間のクーロン相互作用を考慮したハミルトニアンから理解するのが、固体物理学の究極の目標の一つです。しかし、第一原理ハミルトニアンがもつ膨大な自由度のため、現時点での最大規模・最速のスーパーコンピュータを用いても、第一原理ハミルトニアンを厳密に解析するはできません。そこで、これまでは考えている系の興味のある低エネルギーの部分のみに注目して、自由度を減らした有効模型を考案し、それを解析する方法がとられてきました。この方法は多くの成功を収めてきたものの、有効模型のパラメータは多くの場合、「手」で決められており、そのパラメータの妥当性が常に問題となっていました。
そこで、われわれは、第一原理ハミルトニアンと有効模型をつなぐ橋渡しとして、「第一原理ダウンフォールディング」という方法を開発してきました。この方法では、まず、第一原理ハミルトニアンにもとづいて固体の大規模構造である、バンド構造を計算します。そして、フェルミエネルギーから離れた高エネルギー部分の自由度を、制限乱雑位相近似と呼ばれる方法で消去して、少数の自由度のみを残した有効模型を導出します。この方法を用いることで、固体の構造のみから、人為的なパラメータを導入することなしに、有効模型のパラメータを決めることができます。この有効模型を高精度な数値計算手法(たとえば、多変数変分モンテカルロ法など)で解析することで、固体の物性を解明、予測することができるのです。この手法を、近年発見された鉄系超伝導体に適用して、鉄系超伝導体の多彩な磁気的性質がおのおのの物質の相互作用の大きさの違いに起因していることを明らかにしました(図を参照)。この多彩な磁気的性質の微視的な起源は、第一原理的に有効模型のパラメータを導出して初めて明らかになったことです。

比較表理論的に計算した磁気秩序モーメント m(qpeak)
(赤丸) と実験値(青×)の比較。横軸は相互作用
を一様にスケールするパラメーλである。理論
計算の結果と実験値が非常によく合っていること
がわかる。