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卒業生を訪ねて 第6回

桐野俊輔

きりのしゅんすけ

 

株式会社 ACCESS
研究開発本部 研究開発室


東京大学物性研究所にて、時間依存密度行列繰り込み群法を用いた量子ドット系の非平衡輸送現象やモット絶縁体の絶縁破壊などに関する物性理論研究をおこない博士号取得。
2011年にACCESS入社。

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研究で培ったプログラミング技術を生かして

 

「卒業生を訪ねて」第6回は、株式会社ACCESSでソフトウエア・エンジニアとして活躍する桐野俊輔さんを、東京大学大学院博士課程の黒木彩香さんが訪問しました。桐野さんは入社4年、現在は若手を率いて新しいプロジェクトに挑戦する技術リーダーです。


大学院でプログラミングの面白さを知る

黒木 理論物性物理の研究からソフトウエア・エンジニアの仕事につかれたそうですが、もともとプログラミングが得意だったのですか。
桐野 実は、修士1年までは、プログラミングをほとんでやっていなかったんです。研究室に密度行列繰り込み群という数値計算手法のエキスパートがいて、その方に師匠になってもらって教わりました。
黒木 プログラミングを面白いと思い始めたのはその頃?
桐野 そうですね。今までできなかったことがコンピュータを使ってできるようになるところが面白いと思いました。物理の文脈で言ったら、新しい計算が工夫してできるようになるとか、新しい現象が見えるとか。
黒木 自分の進む道として、エンジニアが選択肢に入ってきたきっかけはあったのですか。
桐野 明確に切り替わったわけではないですけど、プログラミングが面白くなったということです。2年ぐらいプログラミングをやった、D2の初めくらいでした。
黒木 研究で使われていたプログラミングの言語やライブラリは、今の仕事とは違うのですか。
桐野 全然違います。ですが、どうすれば速くなるか、簡潔に書けるかといった基本的なところは結局同じなので、前にやっていたことがすごく役に立っています。もちろん規模も大きいですし、ほかの人がいっしょに作業するとなるとリーダビリティがいちばん大事になります。それに、ソフトウエアを初めにつくるときのコストよりも、継続的に使っていく間に修正したり機能を追加したりする保守のコストのほうが大きいと言われています。保守のコストを減らすことが大事で、そのためには設計が良い、読みやすいといった、修正しやすいコードになっていないといけないんです。

システムの“裏方”をつくる

黒木 では、現在のお仕事を教えてください。
桐野 ACCESSは、ブラウザ、情報家電、スマートフォン、電子出版などの情報ネットワークのソリューションを製品としています。例えば、業が使うチャットやテレビ電話ができる機能、金をするための機能、スマートフォンに通知する機能をサーバーのシステムとしてつくり、それを複数のアプリケーションから共通機能として使ってもらいます。最近ではセンサーデバイスのイノベーションによって、さまざまなセンサーがクラウドにつながる状況になってきていて、センサーからの情報を受け取って処理をするサービスを共通機能として提供することも準備しています 一つのシステムは通常、複数のコンポーネントから構成されています。例えばスマートフォンのアプリでは、まずスマートフォンから通信を受け付ける部分があって、受け付けたデータを別のコンポーネントに受け渡します。そこで何らかの処理をしてレスポンスを返すというように協調動作するようにつくってあります。その裏方(バックエンドシステム)の部分をつくっているのです。
黒木 裏方とは?
桐野 企業向けのチャットツールだったら、このUIではこういう情報を画面に出すとか、このタイミングで通知を送るといったデータをやりとりする仕様を決めて、そのプログラムをつくるんです。
黒木 システマティックな感じですね。UIといっても、人の行動を予測して考えるのではなくて。
桐野 機械どうしがやりとりする部分をつくっているんですね。人が直接触る部分ではないので、そういう意味でちょっと裏方なんです。
僕は今、研究開発部門に所属していて、さまざまな社内アプリケーションから共通で使われるシステムを構築・運用しています。社内で共通で使われる機能、例えばユーザー管理とかメール送信などですが、こういった共通部分を
それぞれのアプリケーションが個別につくらなく良いようにするためのものです。実は今、私たちのつくったシステムを使ってくれている人がじわじわと増えている傾向にあって、裏で動くプログラムならではのやりがいを感じています。
黒木 表のほうに憧れたことはないのですか。
桐野 裏方のほうがいいと決めてかかっている面がありますね。個人的な好みではありますが、裏方のほうが技術的に面白いことが多、をさばくとか、大規模なデータを入れて検索できるようにするとか、1台のサーバーが壊れたと
しても動き続けるようにするといったところです。

 

入社3年目で技術リーダーに

黒木 会社に入ってから学ばれたことが多いのですか?
桐野 そうですね。要はサーバーサイドのプログラミングをしているわけですが、大学院ではサーバーとかいじったことなかったですから。入社して研修を受けたあと、電子書籍のプロジェクトに入って、そこで勉強しました。2年半で今のプロジェクトに移ったのですが、またいろいろ勉強しました。
黒木 新しい技術や研究についても学ぶのですか。
桐野 それは必要ですね。コンピュータサイエンスの最先端についていくのは難しいですが、博士課程まで行くと論文に大事なことが書いてあるという認識がしみついているので、キャッチアップするために論文を読むことはあります。
黒木 会社の年齢層はどのくらいですか?
桐野 今のチームは4人ですけど僕が最年長で、31から26歳です。前のチームもそのくらいでした。
黒木 チームのリーダーを務めていらっしゃるということですが。
桐野 今のプロジェクトを新規に立ち上げたときに、リーダーに起用されました。うちの会社は若い人にも自由にやらせてくれる雰囲気があって、3年目でリーダーという形で入れたことは、僕としては非常に良かったと思っています。今は他の3人のメンバーがやりたがっている仕事を引き出したり、技術レベルのちょっと上のタスクをアサインしてレベルアップしてもらえるようにしたりと、どの仕事をやらせようか考えるんですけど、なかなか難しいですね。前のチームのリーダーはスタッフとの距離感をとるのが非常にうまくて、僕が不満に思っていることを察知してくれていました。仕事へのモチベーションがほんとうに大事なんです。

 

多くの人が便利に感じる何かをつくりたい

黒木 プログラミングができるようになって、いろいろな仕事ができるようになったところで、これから先について何か考えていらっしゃいますか。
桐野 裏方裏方と言っていますが、やはりいろんな人が使ってくれる製品をつくりたいですね。この会社に入った動機もそこにあります。例えば、携帯のブラウザができたことで、PCを持ち歩かなくても、どこからでもインターネットができるようになった。最近では、スマートフォンと多種多様なアプリが出てきてコミュニケーションの
とり方を変えたと思うんです。そのように、仕事や生活のしかたを変えるような何かをつくりたいですね。できるだけ多くの人が便利に感じる何かをつくりたいです。
黒木 今の仕事のプロダクトは海外でも使うことができるものなのですか。
桐野 ネットの世界では国境はあまり意識しません。ですが、プロダクトの中にはユーザーの文化に根差しているものもありますから、文化を知らないといけないと思っています。