特集2:戦略分野間の連携 分野1× 分野2
鎌田知佐かまだ ちさ |
戦略分野1と戦略分野2の連携シンポジウム
2013年12月17日(火)、名古屋大学 IB電子情報館大講義室にて、「HPCI戦略プログラム 分野1×分野2 シンポジウムin 名大『生体分子複合システムを計算する-相互作用は何をもたらすのか-』」と題したシンポジウムを開催しました。
HPCI戦略プログラム戦略分野1では、民間企業を含む研究者や一般の方に戦略分野1の研究内容や活動を知ってもらうため、シンポジウムやセミナーを開催しています。この活動は、全国を北海道・東北、関東、中部、関西、中国、九州・沖縄の6ブロックに分け、各ブロックで行っており、今回のシンポジウムは、戦略分野1のメンバーである名古屋大学大学院の太田元規教授(情報学研究科)に世話人をお願いしました。名古屋大学には、戦略分野2の生体分子を研究対象とする研究者が多いことから、太田教授より「戦略分野2といっしょにシンポジウムを開催するほうがいいのではないか」との提案がありました。これを受けて、戦略分野2の名古屋大学大学院の笹井理生教授(工学研究科)にも世話人となっていただき、戦略分野2とのコラボレーションのシンポジウムとなりました。
生命現象の解明とハイパフォーマンス・コンピューティングの役割
今回のシンポジウムのキーワードは複合システム、相互作用、そしてハイパフォーマンス・コンピューティングです。太田教授は、シンポジウムのオープニングで、「分子間の相互作用が生体複合システムにおける協同現象を理解するための最初の鍵ではないか」とその主旨を述べられ、続けて「ハイパフォーマンス・コンピューティングにより、データ量が増え、計算量が増えることが生命現象の質的な理解にどうつながっていくか、それを理解することが今後の課題である」と説明されました。各講演者はこのシンポジウムの主旨に沿って、それぞれの研究テーマを紹介されました。*1
講演を通して新鮮な感動を覚えました。というには、だれもが知っている中学生や高校生のときに生物の授業で習う、ヘモグロビンや、ヌクレオソームなどの微小な動き(振る舞いというべきでしょうか)に真理を見いだそうとされていること、また、1つの研究対象に対して、多くの研究者が多岐にわたるアプローチをされていたからです。へモグロビンの例でいうと、ヘモグロビンは鉄(ヘム)と結びつくことで酸素を血液中に運ぶものとして知られています。ところが、その仕組みを微細にみると、ヘモグロビンには、最初のサブユニット(分子の単位)のヘムに酸素が結合すると、2つ目、3つ目、4つ目となるにしたがい徐々に酸素に結合しやすくなる仕組みがはたらいています。逆に、酸素を放出する場合も、1つ目、2つ目と順に離していく「アロステリック機構」という協同現象があらわれるのです。
これらの微視的な仕組みを理解するためには非常に複雑な計算が必要で、ハイパフォーマンス・コンピューティングが果たす役割の大きいことをあらためて実感しました。
コンピュータシミュレーションと実験とのコラボレーション
もう1つ印象的だったのは、太田先生の講演の質疑応答での、共同研究者の前田雄一郎特任教授(名古屋大学構造生物学研究センター)の説明でした。お二人が共同研究を始めたきっかけは、研究を進めるうえで構造動態を調べるために実験計測とコンピュータによる計算結果を突き合わせて、キャッチボールをする必要に迫られたことでした。
コンピュータシミュレーションと実験とのコラボレーションという言葉は、プロジェクト内でも頻繁に交わされている言葉ですが、討論の場でその過程を聞くと、より明確にイメージすることができます。
講演後の質疑応答も活発に行われました。そして、クロージングで笹井教授は、「生体分子を対象としているが、戦略分野1と戦略分野2ではバックグラウンドが異なるが、この多様なスタイルを味わうことに意義がある」と締めくくられました。生体分子の協同現象と同じように、研究においても分野を超えた活動を今後も続けていきたいという思いを強くしました。
*1:シンポジウムにおける講演の要旨は、戦略分野1のホームページ に掲載しています。
HPCI戦略プログラム分野1「 予測する生命科学・医療および創薬基盤」 SCLSの合言葉 ̶ オチがないと! ̶ SCLSという名称はSupercomputational Life Scienceに由来しています。SCLSでは、複雑多岐な生命現象の振る舞いをシミュレートして、その動作原理を明らかにし医療、創薬を予測する、制御すること最終目標としています。 「”おち”のない落語はおもろないやろ、サイエンスもおんなじや、ええ結果だけではあかん、おもろい”おち”をつくらんと」と柳田敏雄統括責任者から、所属員全員が熱い激励を受け、日々奮闘しています。 |