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特集2:戦略分野間の連携 分野2×分野5

異分野交流によるブレークスルーをめざす

連携が進む戦略分野2と戦略分野5

 HPCI戦略プログラムが始まって早くも3年が経とうとしています。この間、戦略分野2と戦略分野5「物質と宇宙の起源と構造」の研究者が共通の課題について議論する「異分野交流研究会」が毎年開催されてきました。さらに、「研究支援」でも協力体制が整いつつあります。戦略分野2の研究対象は物性科学・分子科学・材料科学、戦略分野5は素粒子・原子核・宇宙。一見すると、対象分野もそのスケールも異なっているにもかかわらず、なぜこの2戦略分野間の連携が進んでいるのでしょうか。
 戦略分野2と戦略分野5では研究対象となる系を構成する物質要素こそ異なりますが、さまざまな性質や変化を記述するための物理法則がとてもよく似ています。そのため理論や計算手法に多くの共通する課題があります。2つの戦略分野が連携することにより、共通の課題を議論しあって解決をめざしていくことができます。
 歴史を振り返ると、これまでにも物質科学の研究者と素粒子・原子核科学の研究者との交流により、多くのブレークスルーがおこっています。なかでも2008年にノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎博士が、物性現象である超伝導を説明する「BCS理論」をきっかけに、受賞理由となった「自発的対称性の破れ」のアイデアを思いついたのは有名です。 戦略分野2と戦略分野5に共通する具体的な課題には次のようなものがあります。まず、ミクロな世界に共通する量子性です。戦略分野2では物質中の電子とイオン、戦略分野5では原子核を構成する陽子や中性子といった核子、その核子を構成するクォークとグルーオンが対象となります。量子多体系の厳密計算手法や近似解法の開発、モデルの構築など、さまざまな試みの中に実に多くの共通する課題があります。また、宇宙で用いられている重力シミュレーションと物質科学の分子動力学シミュレーションには共通性があり、さらに素粒子の格子QCD計算や原子核の衝突現象にも分子動力学計算が使われています。このような課題の共通性は戦略分野2と戦略分野5に限られたものではありませんが、物理学を基礎にもち、互いを理解するうえで壁が低い2つの戦略分野でまずは連携を深めていくことが大切です。

異分野交流研究会

 第3回の異分野交流研究会は2013年11月13 ~14日、岡崎市の自然科学研究機構 分子科学研究所(以下、分子研)にて開催されました。16組の発表があり、40人の参加者が活発に議論を繰り広げました。テーマは「量子多体系のダイナミクス計算」。この背景としては、物質科学の研究で近年、フェムト秒(10のマイナス15乗 秒)やアト秒(10のマイナス18乗 秒)単位で化学反応の過程を観測できるようになったことがあげられます。このために、時間領域で電子やイオンの量子ダイナミクスを計算することが求められています。Tokusyu2 Bunya2×5 Photo2一方、原子核物理学では、1970年代から時間依存平均場理論を用いた原子核衝突のシミュレーションが発展してきました。交流研究会では、分子科学・物質科学の分野からは光電子ダイナミクス計算や古典・量子混合ダイナミクス計算、原子核分野からは光応答や衝突現象に対する量子ダイナミクス計算を中心に発表がありました。
 前回までの異分野交流研究会では大規模計算にもとづく発表が多く、数理科学や計算機科学からの発表もありました。世話人である筑波大学の矢花一浩教授は、「今回は必ずしも大規模計算にこだわらず、これから大規模計算が必要とされる種を探すことを意識しました。このため、計算とともに物理の話にも重きを置きました」と述べています。同じく世話人の分子研の信定克幸准教授は、「今後の大規模計算をするためのきっかけをつかんでいただければと思います」と研究会冒頭で挨拶しました。

研究支援

 今回の異分野交流研究会では、研究支援に関する発表もありました。分子研の石村和也研究員からは、プログラミングやチューニングなどの技術および情報共有を目的としたCMSI若手技術交流会やCMSIアプリ高度化合宿“TOKKUN!”の報告と案内がありました。
 戦略分野5では、素粒子・原子核・宇宙分野の研究者、計算機科学の研究者らからなるユーザー支援チーム*1が組織されており、全国の素核宇分野の研究者から依頼があると、依頼内容に詳しいメンバーが解決法の提示やアドバイスなどを行っています。これまでTokusyu2 Bunya2×5 Photo3、効率の良い並列計算のアルゴリズム、可視化ソフトの紹介、微分方程式の解法ルーチン、特殊な対角化ルーチンの開発などを扱ってきました。今後は、戦略分野2の交流会などに戦略分野5の研究者が参加し、戦略分野5のユーザー支援で戦略分野2の研究者からの支援依頼を受けるなどにより、研究支援の面でも交流を深めていきます。
 戦略分野2と戦略分野5の連携によって、かつて南部博士がもたらしたようなブレークスルーが再び両分野にもたらされるかもしれません。今後の活動が期待されます。 (協力:矢花一浩・筑波大学)

 

 

 <用語解説>
*1:ユーザー支援
戦略分野5が行っているユーザー支援について、詳しくはこちらのwebページをご覧ください。
http://www.jicfus.jp/field5/jp/promotion/user/