CMSIの拠点 分子科学拠点 自然科学研究機構分子科学研究所
奥村久士おくむら ひさし自然科学研究機構 分子科学研究所 計算科学研究センター 准教授
分子科学拠点は高塚和夫拠点長のもと、分子科学分野における大規模計算の研究を推進するほか、実験研究者や産業界との連携、人材育成などを含めた分野振興の活動を行っています。分子科学研究所に設置されている分子科学拠点と、スーパーコンピュータの運用と維持管理を行っている計算研究センターを、奥村久士さんが紹介します。
|
---|
若手の育成と研究者間の交流に力を入れる
「計算分子科学研究拠点」(Theoretical and Computational Chemistry Initiative:略称TCCI)は自然科学研究機構分子科学研究所(以下「分子研」)内に設置されています。分子研は化学および化学に近い物理、材料科学分野の研究機関として世界的に有名な研究所です。2013年4月に発行された朝日新聞出版の「2014年度大学ランキング」には、トムソン・ロイター社による2007-2011年における論文引用度に関するランキングが掲載されていますが、分子研は「化学」「材料科学」分野で国内1位、「総合」でも2位にランクされています。
自然科学研究機構計算科学研究センターの前身である分子科学研究所電子計算機センターは1977年5月に分子研の研究施設として設立され、1979年1月からHitachi M-180により共同利用サービスを開始しました。現在ではFujitsu PRIMERGY、Fujitsu PRIMEHPCFX10、SGI UV2000からなる合計326.2TFlopsのシステムを有しており、計算性能は35年間で7桁向上しました。この計算資源を全国の研究者に共同利用を通じて利用いただいています。利用者数は過去5年間増加傾向にあり、2012年度のグループ数は213、利用者数は807名に上っています。また、計算資源の20%をCMSI利用枠としてCMSIに参画している研究者に提供しています。これらのハードウェアだけでなく、分子シミュレーションや量子化学計算のソフトウェアも共同利用になっており、またCMSIの研究者にも提供しています。当センターの高速かつ大規模な計算環境は分子科学、物性科学、生物科学の研究に活用されており、分子理論・物性理論・生体シミュレーションに基づく多彩な研究が行われています。
計算科学研究センターでは単に計算環境を提供するだけでなく、若手研究者の育成、研究者間の情報交換や交流にも力を入れています。毎年冬には、分子研とTCCIとの共催で「分子シミュレーションスクール」と「量子化学ウインタースクール」を開催し、分子シミュレーション分野と量子化学分野それぞれにおいて先導的な活躍をされている先生方に講義していただいています。これらのスクールは、大学院生や若手研究者の育成の場として好評を博しています。また、毎年1月には「計算科学研究センターワークショップ」を開催しています。分子科学とその周辺、物性物理学や材料科学など広い分野から精力的に取り組んでおられる研究者を講師に招き、理論および計算科学の視点から今後取り組むべき問題と必要とされる方法論などを議論しています。
「システムが変わっても、利用者が使いやすいように工夫しています」
計算科学研究センターは、斉藤真司センター長、江原正博教授をはじめ、准教授(私)1名、助教 5名、技術職員 6名、事務補佐員2名、合計16名の スタッフで運用しています。TCCIおよび計算科学研究センターの多様な活動を支えてくださっているのが技術職員の皆さんです。今回は、計算科学研究センターの運営を長年支えてきた水谷文保さんに、当センターの紹介と日ごろ感じている仕事のやりがいを語ってもらいました。
「分子研計算科学研究センターは、メインのスパコンがHitachi、 NEC、 Fujitsu製と移り変わっただけでなく、早くから並列コンピューティングを意識してIBM、 SGI製のサブシステムも導入してきました。このため計算機の博物館と揶揄されたこともありますが、過去にとらわれずその時代の良いものを積極的に導入するという風土があったからだと思います。その代償として利用者に不便を強いるわけにはいかないので、そこは運用側が苦労することになります。例えば、利用頻度が高い分子軌道法アプリであるGaussianには、インプットファイルを指定するだけでジョブ投入を行うツールを用意して、システムの差異を意識させないように工夫しています。このように、日常業務の中で技術的な開発要素を探して挑戦することにやりがいを感じています。
CMSI利用者の便宜を図るため、“京”用開発サーバとして商用1号機(Fujitsu PRIMEHPCした。通常の運用だけでなく、システム更新でも分子科学コミュニティの皆様のご意見を反映していますので、今後も引き続き積極的なご意見をお寄せください」。
計算科学研究センターのさまざまな業務を行ううえで、技術職員の皆さんの力は欠かせません。特に水谷さんは班長として技術職員のまとめ役を務めるだけでなく、全ての業務に精通されており、当センターにとってなくてはならない存在です。今後も、教員と技術職員が密接に連携を取りながら、大規模高速計算環境を提供するとともに、理論・計算科学分野の人材育成や研究交流を通じて計算分子科学の発展の一翼を担うことができればと考えています。
分子科学拠点長からのメッセージ
|
---|