現在位置: ホーム torrent№10 日本語版 第3回 CMSIの拠点 物性科学拠点

第3回 CMSIの拠点 物性科学拠点

東京大学物性研究所

野口博司 のぐち ひろしP14野口先生

東京大学物性研究所
物質設計評価施設/計算物質科学研究センター 准教授

 

物性科学拠点は物性物理における大規模計算の研究を推進するため、スパコンの共同利用を担うとともに、理論系だけではなく実験系の研究者にも計算機の利用が広がるようにソフトウェアの普及活動や開発支援をおこなっています。その活動を野口博司さんが紹介します。

 

ニーズに応えて既存ソフトの提供も

物性科学拠点は東京大学物性研究所内に計算物質科学研究センター[ Centerof Computational Materials Science(CCMS)]として設置されています。物性研は2000年に東京・六本木から千葉県柏市に移転しました。移転当初、キャンパス自体ができたばかりで周辺は閑散としていましたが、2005年のつくばエクスプレスの開業後は人口もしだいに増え、今では駅前のショッピングセンターは若い子供連れであふれる活気のある街になっています。

物性研では1995年よりスーパーコンピュータの全国共同利用をおこなっています。物性物理の計算に適した計算機を提供することを第一に考えて計算機の仕様を決めてきました。1995年に導入されたFUJITSU V P P 5 0 0 / 4 0から約5 年ごとに更新されてきており、現在稼働中のNEC SX9( System A ) および SGI A l t i x ICE 8400EX (System B)で4世代目となります。2000年から、主にベクトル的な計算をおこなうシステムAと、超並列スカラ計算をおこなうシステムBの2種類の計算機を供用するようになりました。また、2013年4月より、4.5世代目となる FUJITSU PRIMEHPC FX10(システムC)を京コンピュータとの連携のため、運用をしています。来年度にはシステムA、Bの更新を控えており、現在、導入へ向けて作業をしています。P14矢田

物性研スパコンでは各自で作成したプログラムコードを用いて計算する利用者がほとんどでしたが、最近は特に第一原理電子計算において既存のソフトウェアを使用する方が増えてきています。そこで、平面波第一原理計算ソフトVASP、局在基底第一原理計算ソフトOpenMX、強相関系格子模型のライブラリALPSについては、コンパイル済みの実行ファイルの提供を開始しました(注:VASPの使用には利用者各自がユーザーライセンスを購入する必要があります)。


高度な並列計算をおこなえる環境整備のための研究

物性研スパコン共同利用は、国内の研究機関の研究者による物性研究を目的とする計画であれば、どなたでも利用申請を行うことができます。申請の機会は年2回( 6月と12月)の定期申請のほか、特に緊急度の高い大規模計算についてはDクラスとして、お試し計算についてはAクラスとして、随時申請を受け付けています。特にスパコンでなければ実行できない大規模計算かどうかなど、審査員による評価に基づき、CPU時間などの計算資源を配分しています。現在は88名もの審査委員の先生方にボランティアで協力していただいています。また、一般の共同利用とは別に2割の計算資源をCMSIに提供しています。P15集合写真

スパコンの運用をおこなっているのは物性研附属の物質設計評価施設設計部(電子計算機室)です。川島直輝教授と杉野修准教授、私、渡辺宙志氏と笠松秀輔氏の2名の助教、矢田裕行氏、福田毅哉氏、荒木繁行氏の3名の技術職員が中心となり、所内外の先生方の協力の下、業務を進めています。特に助教と技術職員の尽力なくしてはとても運用できないので、彼らにはいつも感謝しています。

また設計部では、ソフトウェアの開発と公開・普及に努め、共同利用者がより簡便に高度な並列計算をおこなうことができる環境を整備する計画を立てています。そのための開発支援をおこなう特任研究員2名が2015年4月から新たにスタッフとして加わります。

 

CMSIの中核拠点として

CCMSはCMSIの活動をサポートするために2011年4月に設立されました。メンバーは常行真司センター長、川島直輝教授をはじめ、教授5名、准教授3名、助教5名、特任研究員12名、学術支援員2名、事務補佐員5名からなります。こう書くと非常に大所帯に見えますが、他との兼任や勤務地が神戸など他の地域になるメンバーが多く、柏に常駐する人員はそれほど多くありません。

設計部がスパコンの共同利用を主におこなっているのに対して、CCMSではソフトウェアの普及、開発支援に特に力を入れています。CMSI全体の活動として、ソフトウェアを紹介するポータルサイトMateriAppsを2013年に構築しました。講習会やシンポジウムの企画もおこなっており、10月にはALPSチュートリアルを開催します。このような取り組みを通して、理論家だけではなく、実験家にも数値計算を気軽におこなえる環境を整えていきたいと考えています。


P15川島先生

物性科学拠点長からのメッセージ

川島 直輝

かわしま なおき

私が大学院に入った80年代後半は、計算機が大学院生にも手軽に利用できるようになってきて、問題の特性を巧妙に生かしたアルゴリズムが次々と提案されていました。大抵の場合、シングルプロセッサでどれだけ速く計算するかを考えればよく、アルゴリズム自体が普遍的な価値をもつと素直に感じられた時代でした。時代は変わって、大規模並列計算時代に突入していますが、分散メモリ並列計算モデルで最速の物性計算アルゴリズムはなにか、という問題は、依然としてハードウェアの詳細に左右されない普遍的な問いです。計算物性科学研究者がのびのびとこの普遍的な問いの答えを考えられる環境をつくることができればと考えています。