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《part-3》 MateriApps 物質科学シミュレーションのポータルサイト

五十嵐 亮
いがらし りょう 
東京大学物性研究所 CMSI物性科学拠点研究員


京コンピュータのような最先端のスーパーコンピュータを利用して次世代の物質科学研究を進めていくには、計算機の演算性能の進化だけでは不十分です。物質や現象を記述する方程式を効率的に「解く」ための手法、すなわち「アルゴリズム」の発展もまた重要な役割を果たしています。最先端の物質科学シミュレーションの研究現場では、日々新しいアルゴリズムが提案されており、また、その応用が活発に議論されています。p6-ma
一方で、コンピュータの並列化と大規模化にともない、ソフトウェアは複雑化しており、ソフトウェア開発における最適化、高度化、メンテナンスのコストが増大しています。また、ソフトウェアを公開し、積極的な利用を推進するには、ドキュメントの整備や動作サポートなど、多大な手間が必要となります。そのため、ソフトウェアの公開に積極的な開発者はまだまだ少数派です。こうしたことから、高性能・高精度な最新のアルゴリズムを実装したソフトウェアは数多く開発されているにもかかわらず、未公開であったり、ドキュメントが不十分だったりして、実験家や企業研究者などの利用者にその存在が伝わっていません。その結果、アルゴリズムの発展やソフトウェそのもの、あるいは開者自身が十分に評価れているとはいえませ現状では、情報が豊な、主として海外製の公開ソフトウェア・商用ソフトウェアの利用者が多数を占めています。
CMSIでは、ポータルサイトMateriAppsを通じて、物質科学シミュレーションソフトウェアそのものだけでなく、開発者の「見える化」を推進します。具体的には、サイト上でソフトウェアの魅力、将来性、応用性について、開発者自身の生の声を伝えます。また、国内外で開発された物質科学シミュレーションソフトウェアの機能や特徴を紹介。公開ソフトウェアの開発者に、充実したマニュアルやチュートリアルの作成などを支援し、利用者が気軽に試すことのできる環境を提供します。
 さらに、利用者の「やりたいこと」「知りたいこと」に対し、計算手法、対象となる物質、興味のある現象・物理量などについて、多元的に検索できるようにします。そして、ソフトウェアごとにフォーラムを用意することで、利用者と開発者の間のコミュニケーションをはかり、情報を共有したり、意見の交換を行ったりできる場を育てていきます。
 今後の物質科学シミュレーションの発展には、計算機の演算性能の進化やアルゴリズムの進歩だけでなく、コミュニティコード(分野全体で開発し利用するアプリケーションソフトウェア)を育てていくことが不可欠です。物質科学分野では、これまで個人や小さなグループ内での開発が主流でしたが、コミュニティの拡大にともない、ソースコード管理システムなどの共同開発環境(GitHubなど)の導入が必要になります。
MateriAppsでは、ソフトウェア開発へのGitHub導入、ドキュメントの作成やソフトウェア講習会の開催などを支援していきます。開発者と利用者の間で情報の共有をはかり、公開ソフトウェアのコミュニティ形成に結びつけることで、ソフトウェア公開を志す開発者をサポートします。さらには、同様の機能を持つ類似のアプリケーションの入出力形式の共通化や統合、シミュレーション結果の可視化・動画化など、利用者の視点に立った情報を提供して、利用者と開発者の双方にとって役立つコミュニティの創出に努めていきます。

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五十嵐亮
いがらし りょう

物性科学拠点研究員東京大学物性研究所
東京大学大学院で物性物理を専攻。博士(理学)を取得後、日本原子力研究開発機構で並列DMRG法のシミュレーションに従事。

応募の動機
自ら「京」などでの大規模計算に向けたオープンソース・アプリケーションの開発と研究を進める一方で、アプリケーションの公開を推進するMateriAppsの運営に携わることで、計算物質科学の発展に貢献していきたいと思いました。

ミッション/役割
CMSIの計算資源の管理、MateriAppsの運営、公開アプリケーションの開発・研究を通じて、物質科学シミュレーションの普及・発展に貢献していきます。