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CMDワークショップ 10年の活動

関西から日本へ、そしてアジアへ

*CMD®はCMDコンソーシアムの登録商標です。CMD®ワークショップの企画立案はCMDコンソーシアムが行っています。

cmd集合写真











 

第20回CMD®ワークショップの参加者と講師陣。
最前列左端が下司特任准教授、最前列左から3人目が小野助教、5人目が赤井教授
最前列右から2人目が小口教授。

 

小口多美夫   おぐち たみお
大阪大学産業科学研究所
産業科学ナノテクノロジーセンター 教授

2012年3月6日(火)から10日(土)の5日間、第20回コンピュテーショナル・マテリアルズ・デザイン(CMD®)ワークショップが京都府木津川市にある国際高等研究所(高等研)で開催されました。CMD®ワークショップは毎年2回開催されており、今回で開始からちょうど10年目の節目を迎えました。その活動を振り返り、計算物質科学イニシアティブ(CMSI)との連携までの歩み、見えてきたいくつかの課題とその取り組みを紹介し、今後を展望します。

CMD®ワークショップの誕生
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CMD®ワークショップの母体となったのは高等研のスペシャリスト養成事業です。2001~2002年、この事業の第1弾として「情報生物学適塾」が成果を上げていました。「情報生物学適塾」というのは、既成の大学院ではカバーできない新しい研究課題を取り上げて専門家を講師に招き、若手の受講生を対象にして合宿スタイルでセミナーもしくはワークショップを行うものでした。受講者が単に目的の知識を得るだけでなく、講師と双方向で交流する機会を積極的につくり、相乗効果として将来を担うスペシャリスト集団が形成されることを目的としていました。
一方、大阪大学には当時、第一原理計算を専門とする研究者がそろっていました。赤井久純氏、吉田博氏、笠井秀明氏、鈴木直氏、張紀久夫氏らです。こうしたバックグラウンドがうまく働いて、2001年、科学技術振興事業団(JST、現在の科学技術振興機構)の計算機活用型プロジェクト「計算機ナノマテリアルデザイン手法の開発」が採択されました。その支援を受けて、高等研のスペシャリスト養成事業の第2弾として2002年9月、CMD®ワークショップが産声をあげたのです。
CMD®、コンピュテーショナル・マテリアルズ・デザインとは、ある機能や物性を求めて、それを備えた未知の物質や構造を理論的に設計する、いわば「量子デザイン」です。具体的には、物性物理の基礎理論に基づき、計算機の力を使って計算します。量子デザインをするツールは計算機なのです。CMD®ワークショップは、この量子デザインができるように、基礎知識や技術を提供することを目的としています。
第1回CMD®ワークショップの講義の場所は高等研が中心になり、計算機実習は日本原子力研究所(JAERI)関西研究所(当時)のITBLの施設を利用しました。参加者は大学院生5名、大学・高専関係者4名、民間企業12名、公的研究機関1名の計22名でした。4泊5日、講義は連日夜9時頃まで続き、合宿形式ならではの充実した内容となりました。

CMSIとの連携へ
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CMD®ワークショップはその後、高等研をはじめ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)材料ナノテクノロジープログラム、科学技術振興調整費、科学研究費特定領域研究、振興分野人材養成プログラム等の支援を受けて、継続的に開催することができました。図1に第1回より20回までの学生および社会人の参加者数の変遷を示します。20回にわたる総参加者数は858名(うち学生461名、社会人397名)でした。
民間企業からの参加者の多さは第1回から注目され、このようなワークショップがいかに必要とされているかが認識されました。そして、2004年10月には大阪大学で社会人教育プログラムが開設されたのです。第6回CMD®ワークショップからは、社会人教育プログラム内でのCMD®ワークショップの受講が必修となりました。また、このプログラムは大学院科目としても単位認定されています。その後、2009年よりナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究プログラム(http://www.sigma.es.osakau.ac.jp/pub/nano/)として発展しています。第1回より同プログラムに引き継がれるまで、ワークショップの事務局は工学研究科の笠井研究室が受け持っていました。
さらに、2011年10月開催の第18回CMD®ワークショップからは、CMSIの主催する活動のひとつとしても位置づけられるようになったのです。そもそも、量子デザインする物質が単位胞に多くの原子を含んでいたり、ナノ粒子系のような規模の大きいものになると、相応する規模の計算が必要になり、そのような計算を実行できるコードの開発技術も必要になってきます。2010年9月に発足したCMSIは「京」コンピュータを使った大規模計算を目指していましたから、この点で重なりをもっていました。また、量子デザインができる人材を育成するという点も、両者の目標に含まれていました。

多様な受講生への対応に向けて
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CMD®ワークショップの第1、2回の講義と実習はその後のビギナーコースの内容に相当する単一クラス形式でした。しかしながら、受講生の経歴や実習技能に幅があり、現場での運用にいくつかの問題が生じていました。その経験を踏まえて、第3回からはコース制を取り入れました。ビギナーコースとアドバンストコースの2コース制を数回続けたのち、エキスパートコースを併設。多様な受講生の要望に対応するとともに、第17回からはスーパーコンピュータコース(詳細は次ページ『CMD®20「スパコンコース」』参照)が新設されました。
受講生がCMD®ワークショップに何を求めるかは実際まちまちで、第一原理計算をまずは体験したいという初級者から、具体的な研究課題に第一原理計算を活かしたいという目的がはっきりしている人まで、たいへん幅広い対応を求められました。たとえば第一原理計算では多くの場合、計算機端末上に各種指示としてコマンドを打ち、またUNIX®レベルのファイル操作が最低限基本となります。当初は、各講義の中で必要に応じて説明をしていましたが、最近のワークショップではビギナーコースの初日にUNIX®講座を開設しています。さらに、第一原理計算の基礎にかかわる講義・実習に加えて、毎回、主に外部から講師を迎え、先端研究事例として大学、研究機関、民間企業における第一原理計算を使った物質・デバイス領域への応用例が紹介されています。
CMD®ワークショップでは毎回、終了後に受講生と講師に対してアンケート調査を実施しています。ここで、ワークショップの内容や実施形態に関する要望、問題点を指摘してもらい、以後の企画や運営に反映させるようにしています。

アジアへの展開
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第10回ごろから、東アジア地域からの外国人の参加が増えてきました。大阪大学に留学している大学院生が中心で、第10回の外国人参加者数は9名、第19回には18名に増えています。これには、笠井教授の尽力によるところが大でした。一方、外国からの参加者が増えたため、講義・実習を日本語だけで行うことが難しくなり、説明スライドだけでなく口頭説明についても日本語と英語を併用するようになりました。このスタイルは今日まで継続されていますが、困った問題がおこることもあります。受講生の質問がきっかけで講義に熱が入ると、しばしば日本語もしくは英語での説明に偏り、その結果、受講生が講義に不満をつのらせてしまうのです。
このような問題があるものの、留学生の受け入れは大きな効果をもたらしてくれました。CMD®ワークショップを介した東アジア地域の人たちとの交流がもとになって、2008年から東アジア地域でのアジアCMD®ワークショップが始まったのです。2008年8月、インドネシア・バンドン工科大学での開催を皮切りにして、同9月にはフィリピン・デラサール大学で、2009年度はインドネシア、フィリピンに加えてベトナムでも開催。2010年度、2011年度にはさらにタイを含む東アジア4カ国でアジアCMD®ワークショップが開かれました。
東アジア地域等の開発途上国では計算科学に対する関心と期待がそもそもたいへん高く、パソコンレベルの計算機資源を使った若手人材育成が実施可能なCMD®ワークショップの開催を熱望する積極的なリクエストが数多くあります。

CMDアジア
フィリピンでのCMD®ワークショップ 写真撮影:Wilson Diño准教授

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