現在位置: ホーム torrent No.9 日本語版 第4回卒業生を訪ねて 【ものづくりの最前線に立つ社会人2年生】

第4回卒業生を訪ねて 【ものづくりの最前線に立つ社会人2年生】

強度だけでなく感覚までも設計する
澁田 現在、どのようなお仕事をされているのですか。
加嶋 アルミ・銅事業部門の解析技術研究室に所属し、材料メーカーの観点からアルミ材料を使用した構造物が強度、コストともにより効率的となる設計をしたり、成形方法の開発に取り組んだりしています。最近ではアルミ缶(ボトル缶)の強度設計をおこなっています。
澁田 アルミ缶の設計の際、いちばん求められる点はどのあたりですか。
加嶋 やはり軽量化の問題です。例えば1.0μmの単位で薄肉にするだけでアルミ缶は大分軽くなります。一方、上から200kg程度の荷重に耐える強度は保持しなくてはいけません。この両面を維持しつつ、コスト的にも有利となる構造の設計をめざしています。
澁田 軽量化以外で重視している点はありますか。
加嶋 例えば、人工衛星パネルの展開方法で有名な「ミウラ折り」を胴部分に採用したダイヤカット缶というのがあります。これは軸方向の圧力に強い構造で、缶を開けた際に圧力が解放されて「ミウラ折り」の凹凸が強調されます。このときに、ポン!と大きな音が出ることで商品のイメージを演出しています。このように、強度だけでなく感覚的なものまでもが構造設計の中から生み出されるところが、とても面白いと感じています。
澁田 設計には解析的手法(シミュレーション)を用いられているのですか。
加嶋 実験と解析の両方です。解析としては有限要素法を用いた構造解析やトポロジーの最適化計算などをおこなっています。また、実際に設計した構造物の強度試験を行い、軸強度が求められる基準を満たしているかなどを試験しています。
澁田 シミュレーションを導入するメリットは何ですか。
加嶋 現在のアルミ缶の有限要素法解析はだいたい5~6時間程度ででき、現実的な時間の範囲内で構造物の強度予測ができます。
澁田 確かに、大学の研究だと数週間~数カ月のオーダーで大規模計算をやりましたというのを売りにする場合もありますが、企業で限られた納期内で「ものづくり」をするとなると、現実的な時間で所定の結果を得るという視点が重要になっていますね。逆に時間がかかってでも計算機支援が求められている問題はありますか。
加嶋 例えば、圧延の過程において結晶異方性により強度にばらつきができ、缶に内圧がかかった際に一部分だけ潰れるという問題があります。これを解決するには材料組織の高精度制御が求められますが、冶金学的経験に基づいた実験には多くの労力がかかります現在、私は強度設計部分を担当していますが、材料組織の最適制御から構造設計までを一貫して計算機上でシームレスに解析し、所定の目的にあった材料組織を積極的に制御できるようになれば、材料メーカーとしての強みになるかなと思います。
kashima.fig2材料科学はものづくりの基礎だと実感してメーカーへ
澁田
材料組織制御という言葉が出ましたが、学生時代は関連するテーマの研究に携わっていたそうですね。
加嶋 京都工芸繊維大学の高木知弘先生の研究室で対流内での凝固組織形成シミュレーションに関する研究をしていました。
澁田 もう少し詳しく内容を聞かせてください。
加嶋 鋳造時に発生する対流を考慮した凝固組織成長や、デンドライト(複数に枝分かれした樹枝状結晶)のフラグメンテーション(折れ)に対して対流が及ぼす力学的影響をフェーズフィールド法で解析していました。具体的には、流体の基礎方程式であるナビエストークス方程式と、フェーズフィールド方程式を連成した数値解析をおこなっていました。
澁田 フェーズフィールド法は複雑な界面形状変化を秩序変数分布の時間発展で表現する解析手法として自由境界問題に広く導入されている方法ですよね。コードは自前で開発されていたのですか。
加嶋 研究室で開発されてきたコードを、自分のモデルに合わせて改良しながら使用してきましたので、プログラミングのスキルもそこで学びました。今はパッケージを使うことが多いですが、学生時代に学んだことは今の仕事に大いに役立っています。
澁田 学生時代に成果発表の機会はありましたか。
加嶋 はい。海外の国際会議での発表が2回と、国内での発表は数多くありました。もともと、私は人前で発表することが苦手だったのですが、何度も発表を経験したことで苦手意識を大分克服でき、とても良い機会になりました。また、最先端の研究をされている先生方とお話する機会が得られたことは良い刺激になりました。
澁田 学生時代の研究を通じて最も印象深 かったことは何ですか。 加嶋 実際に鋳造時の凝固組織形成シミュレーションをやってみて、材料科学は「ものづくり」の最も基礎的な部分で周りに与える影響が幅広いと思いました。それが材料メーカーへの就職を決めるきっかけとなりました。
「ものを分解する」のが好きな少女でした 
澁田
大学で機械系の学科を選ばれた理由は何ですか。 
加嶋 小さいころからものをつくることが好きで「ものづくり」に興味があったことです。
澁田 どんなものを作っていましたか。 
加嶋 作るというよりも構造がどうなっているのかとか考えながら、ものをばらすことのほうが面白かったですね。例えば、目覚まし時計を分解したりしました。それで元に戻せなくなって(笑)。 
澁田 典型的な機械系ですね(笑)。ご家族の影響が大きかった?
加嶋 やはり父親の影響ですかね。父もいろいろ分解するのが好きで、それを横で見ているのが楽しくて。 
澁田 実際、大学の機械系の学科に入ってからの興味はどうですか。
加嶋 大学で講義を受けると、流体力学にも興味がでました。目に見えない流れという現象がナビエストークス方程式という基礎方程式を介して、CFD(数値流体計算)により可視化できることがとても面白いと感じました。 
澁田 なるほど。確かにその視点は面白いですね。
加嶋 学生時代に流体力学と材料力学両方の分野から材料組織に関する研究に携わることができたのは、大きな経験になりました。
澁田 大学、企業と活躍の場が広がるにつれ、興味が様々な知識や経験と結びつきながら広がるのを実感できているのは大変心強いですね。今後の目標などをお聞かせください
加嶋 海外での展示会や国際会議に積極的に参加し、グローバルな視点から設計や開発に取り組んでいきたいと思っています。
澁田 今後も幅広いご活躍を期待しています。

(2014年1月20日 神戸製鋼所・神戸総合技術研究所にて)
(撮影:高木知弘・京都工芸繊維大学)